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単一細胞応答から読み解く組織や器官の「かたち」をつくるメカニズム

動物の組織や器官の「かたち」は細胞が集団として移動、変形することで作られます。かたちづくりのプロセスでは、遺伝子発現パターンによって細胞運動が制御されているだけでなく、細胞は運動しながら周辺環境からの生化学的シグナル(化学物質)や物理的シグナル(機械的な力、形状、硬さ)を感知することで自身の運動を制御します。このような細胞の運動に伴うシグナルの感知と応答が細胞間、組織間でダイナミックにフィードバックすることで自己組織化的に秩序だった細胞集団運動パターンが創発し、組織や器官のかたちがつくられます。そこで胚を構成する細胞数が少ない脊索動物のホヤを利用して、細胞一つ一つがどのような分子、細胞メカニズムによって周辺環境からのダイナミックな情報を感知し応答するかを明らかにします。またそれらの応答がどのように統合され細胞集団運動パターンがつくられるかを明らかにします。

ホヤのシンプルな発生から学ぶ

 発生過程を通じてホヤ胚の組織や器官は少数の細胞で構築されます。そのため、個々の細胞運動がどのように統合され細胞集団の運動を形成し、組織や器官のかたちづくりが行われるかを明らかにすることが可能です。ホヤは細胞系譜が明らかとなっており、単一細胞レベルで遺伝子発現パターンが明らかとなっていることから、特定の細胞で遺伝子を発現させることが可能です。そのためホヤは単一細胞レベルでライブイメージングによる分子や細胞動態の定量、レーザーを使った細胞物理学的な操作、コンピューターシミュレーションを使った力学機構の探索や検証を行いやすい動物です。このように分子生物学、工学、数学の手法をうまく融合することで自己組織化的に細胞集団運動を創発する原理の解明を目指します。

(1) 神経管閉鎖ジッパリング:伝搬的な細胞運動パターン形成

 ホヤは他の脊椎動物と同じように将来の脳や脊髄の原基となる背側神経管を持ちます。神経管閉鎖では、まず神経板と呼ばれる領域がくぼみを形成します。続いて神経板の両端である神経上皮細胞と表皮細胞の境界(神経-表皮境界)が正中線上で神経-神経境界と表皮-表皮境界に接着が切り替わることで神経管が閉鎖し、神経管が表皮から分離します。この接着境界の切り替えは財布のジッパーを閉じるように胚の後方から前方に向けて順番に起こることから神経管閉鎖ジッパリングと呼んでいます。この神経管閉鎖ジッパリングは、後方から前方に向けて伝搬的に細胞運動が起こることによって進行します。個々の細胞運動のタイミングはジッパリングが開始する前にあらかじめ決まっているのではなく、細胞運動が次の細胞運動を誘導することで伝搬的なパターンが作られることが我々の研究から示唆されています。そこで、この伝搬的な細胞運動パターンを形成するメカニズムを明らかにします。

(2)双極性感覚神経細胞の移動・伸長

 神経ネットワークは、神経細胞が移動・伸長し、神経細胞同士がシナプスを介してつながることによって構築されます。神経ネットワークの構築過程では、周辺組織や器官のかたちづくりも同時に行われているため、神経細胞は移動・伸長しながら生化学的シグナルだけでなく物理的シグナルも感知し応答することで神経細胞の移動・伸長が適切に制御されていると考えられます。ホヤ胚では、双極性感覚神経細胞が左右2つずつ背側尾部に存在し、尾の後方から前方に移動・伸長することで頭部の神経細胞と尾部表皮の感覚神経細胞をつないでいます。この双極性感覚神経細胞の移動・伸長と周辺組織の運動との動的相互作用を解析することで適切な神経ネットワークが形成されているしくみを明らかにします。

Reference

#equal contribution, *corresponding author

 

Hashimoto H*, Munro E*

“Differential expression of a classic Cadherin directs tissue-level contractile asymmetry during neural tube closure”

Developmental Cell. 51. 158-172. (2019).

(Cover)

Hashimoto H#, Robin FB#, Sherrard KM, Munro EM*.

 “Sequential contraction and exchange of apical junctions drives zippering and neural tube closure in a simple chordate”

Developmental Cell. 32. 241-255. (2015)

(Cover)

Hashimoto H*, Enomoto A, Kumano G, Nishida H.

“A transcription factor FoxB mediates temporal loss of cellular competence for notochord induction in ascidian embryos”

Development. 138. 2591-2600. (2011)

本研究プロジェクトに興味のある方は橋本助教までご連絡下さい。

橋本 秀彦  <h.hashimoto.fbあっとまーくosaka-u.ac.jp>

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